中小企業の現場で「DXを進めたいけど進まない」といった声は少なくありません。
特に初めてデジタル化に取り組もうとする企業では、具体的に何が障壁になっているのかが見えにくく、どう一歩を踏み出せばよいか戸惑ってしまうことも多いです。
この章では、ベテランコンサルタントの「かずや」と、現場同行中の新人コンサルタント「たつや」の会話を通じて、実際の中小企業が直面しているDX推進における5つの主要なハードルとその背景を、リアルな視点で解説していきます。
DX化のハードル

今日訪問したお客様も「DXに興味はあるけど、ウチには難しいかも」っておっしゃってました。やっぱり中小企業では、DXってなかなか進まないものなんですね。

そうだね。特に初めてDXに取り組もうとする企業ほど、いろんな壁に直面しやすい。
でも、その壁って実は共通していることが多いんだ。今日は代表的な5つのハードルを整理しておこう。
一つ目のハードル 【資金面の制約】
DX推進にあたって、最もよく挙げられるのが「お金がかかりそう」という懸念です。
中小企業は大企業のように潤沢な予算を持っていないため、初期投資の負担がネックになりがちです。

確かに「お金がかかるから無理」ってよく聞きます。大企業ならまだしも、資金に余裕のない会社では難しいですよね。

その通り。でも、最近はクラウドサービスの進化で、初期コストを抑えられるツールも増えてきてる。
それにIT導入補助金をうまく活用すれば、導入費用の大部分をカバーできるケースもあるんだ。中小企業こそ、こういう制度を活かすべきだね。
資金面は確かに大きなハードルですが、補助金や低コストなクラウドツールを活用すれば、意外と実現可能な範囲にあるという事実をまず知ることが重要です。
二つ目のハードル 【IT人材の不足】
DXの推進にはITの知識や経験が不可欠と思われがちですが、社内に専門人材がいないことは中小企業にとって大きな課題です。特に地方企業や小規模事業者では顕著です。

あと、「社内にITがわかる人がいない」ってのもよく言われますね。

これも大きな障壁だね。ただ、最近はノーコードツールの普及で、プログラミングの知識がなくてもアプリを作れるようになってきた。
例えば「Kintone」や「AppSheet」なんかは、営業や総務のスタッフでも使えるくらい簡単なんだよ。
IT人材がいないからDXは無理、という時代ではありません。 ノーコードツールを使えば、現場の社員自身が改善をリードすることも十分可能です。
三つ目のハードル 現場のITリテラシーの差
ITリテラシーのばらつきも大きな課題です。特に現場作業が中心の職場では、パソコンやツールの使い方に不慣れな社員が多く、導入しても活用が進まないケースもあります。

なるほど。でも、現場の方の中には「パソコンはちょっと苦手」という方も多いですよね。導入しても使われなかったら意味ないですし…

そこはポイントだね。「誰でも使える」「最初の成功体験を提供する」という工夫が必要。
たとえば、最初はGoogle Workspaceのように既に使っているメールやカレンダーの延長線上で、業務効率化を始めると抵抗が少ないよ。
ITリテラシーの課題には、「使い慣れたツールから始める」アプローチが効果的。小さな成功体験が次のステップにつながります。
四つ目のハードル 既存の業務フローとの乖離
長年使い慣れた業務フローを変えることへの抵抗感は、DX推進の大きな障害です。「今のままで問題ない」「変えることで業務が止まるのでは」といった心理的なブレーキも働きます。

「今のやり方を変えるのが怖い」という声も多いですよね。特に長く続いてきた業務ほど、変えることに慎重になるというか。

まさにその通り。だから、いきなり全てを変えようとしないことが大事。
まずは現状の業務を可視化して、Excelでやってる手作業をGoogleスプレッドシートに置き換えるだけでも、効率は全然違う。
「いまのやり方+ちょっとした改善」の積み重ねが、DXの第一歩なんだ。
業務フローとのギャップには、「段階的導入」「現状を壊さず少しずつ改善」という進め方が効果的です。無理のない変革が成功の鍵です。
五つ目のハードル DXの効果が見えにくい
多くの中小企業では、「DXをやっても効果があるのか?」という疑念がつきまといます。経営層も現場も、明確な成果が見えないと、継続的な取り組みにつながりません。

導入しても、効果がちゃんと見えないと社内での説得材料にならないんですよね。

その通り。そこで最近注目されているのがスモールスタート型のDXだよ。
小さな業務改善から始めて、その効果を数値で見せていく。「10分短縮できた」「月20時間の手間が減った」みたいな成果を出して、社内の理解を得ていくんだ。
効果が見えにくいという課題には、「小さな成果を数字で示す」アプローチが効果的。実績を積み重ねることで、社内の理解と協力が得られます。

なるほど……中小企業のDXって、大げさな改革じゃなくて、地に足のついた「小さな一歩」から始めるものなんですね。

その通り。DXってのは、テクノロジー導入だけじゃなくて、業務の見直しや働き方の進化なんだ。
だからこそ、現場に寄り添いながら進めることが大切なんだよ。
まとめ
本章では、現場でよく聞かれる「DXに取り組みたいが進まない」という声の背景にある5つの主要なハードルを、たつやとかずやの会話形式で紐解いてきました。
それぞれの課題には共通する特徴があります。
ハードル | 主な内容 | 解決の方向性 |
---|---|---|
資金面の制約 | 初期費用が不安 | 補助金やクラウド活用で低コスト化可能 |
IT人材の不足 | 社内に専門家がいない | ノーコードツールで非エンジニアでも対応可能 |
ITリテラシーの差 | 現場がデジタルに不慣れ | 使い慣れたツールからの段階的導入が効果的 |
業務フローとの乖離 | 現状変更への抵抗 | 既存のフローを活かしながら改善を図る |
効果が見えにくい | 成果が不透明で進まない | スモールスタートで数値的成果を見せる |
こうした障壁を正しく理解し、一つひとつ丁寧に向き合うことが、DXの最初の一歩です。
特別なITスキルや巨額な投資がなくても、中小企業に合ったスモールスタートのDXは十分に実現可能です。
DXとは、未来の業務をつくることではなく、今の業務を少しずつ「もっと良くする」取り組みです。
その視点を持つことで、DXは誰にとっても「手の届く現実的なもの」になります。