GW特別連載「デジタルの向こう側へ 五感をひらく8日間」第4日目
こんにちは、apro-incの業務改善・DXコンサルタント、AYAKAです。
GW4日目。今日は少し足を延ばして、田んぼのそばを歩いてきました。
東京を離れると、まだそこここに田植えの季節の風景があります。水を張ったばかりの田んぼが鏡のように空を映して、そのまわりでカエルたちが鳴いていました。この時期ならではの、どこかほっとする音です。
田んぼにも「DX」が来ている
実は今、この田んぼの世界にもデジタル化の波が確実に来ています。
スマート農業という言葉をご存知でしょうか。IoTセンサー・ドローン・AIを活用して農業を効率化する取り組みのことです。2026年、世界のスマート農業市場は208億ドルを超え、年率11%で成長を続けています。日本でも、データを活用した農業を行う経営体が全体の約4割に達しています。
具体的には、こんなことができるようになっています。田んぼに水位センサーを設置すると、スマートフォンから水管理ができるようになります。北海道の農事組合では、このシステムの導入で5月〜8月の水管理作業時間が76%削減されました。広大な水田を見回るために1日中歩き回っていた農家の方が、自宅のスマホ画面で水位を確認できるようになったのです。
農業の高齢化・人手不足・気候変動という深刻な課題に、テクノロジーが真剣に向き合っています。これは素晴らしいことだと、心から思います。
センサーが測れるもの、測れないもの

でも今日、あぜ道を歩きながら、ふと考えていたことがありました。
田んぼのセンサーが測るのは、水温・水位・土壌湿度・気温・日照量。これらのデータはクラウドに送られ、最適な水管理のタイミングを教えてくれます。とても精巧な仕組みです。
でも、センサーが拾えないものがあります。
カエルの声の変化。農家の方に聞くと「カエルの鳴き方が変わったら雨が近い」「夕方に一斉に鳴き出したら気圧が下がっている」という感覚があるそうです。それは数値ではなく、何十年も田んぼと向き合ってきた人の耳が知っている情報です。
田んぼの泥の匂い。水を張ったばかりの土のにおいには、今年の田んぼの状態が詰まっているといいます。有機物の豊かさ、前作からの土の変化。ベテランの農家はそれを鼻で読みとります。
空気の重さ。「今日はなんとなく空気が重い」という感覚が、農作業のペース配分に影響することがある。それは湿度計の数値とは少し違う、身体全体で感じるものです。
「測れないデータ」を軽視しないこと
DXの仕事をしていると「数値化できないものは管理できない」という言葉に出会うことがあります。ピーター・ドラッカーの格言として引用されることが多い考え方で、一面の真実があります。
でも私は、この言葉を読むたびに少し立ち止まります。
「数値化できないから管理できない」という論理は、「数値化できないものはあきらめる」とも読めます。でも実際の現場では、数値化できないものの中に、最も重要な情報が宿っていることがあります。
農家の方がカエルの声に耳を傾けること。工場のベテランが機械音の微妙な変化で異常を察知すること。熟練の料理人が火の勢いを見て料理の仕上がりを判断すること。これらは「データ化されていない」だけで、れっきとした高度な情報処理です。
スマート農業が進化するほど、こういった「センサーが拾えない感覚」の価値が際立ちます。データが増えるほど、データにならないものの意味が問われるようになる。それは農業に限らず、すべての現場に当てはまることかもしれません。
デジタルと自然は、対立しない
今日歩いたあぜ道には、水位センサーが何本か立っていました。スマートフォンで管理される田んぼで、カエルが鳴いていました。
デジタルと自然は対立しない、とその風景は教えてくれました。センサーが水位を測り、農家の方はその時間で別の仕事ができる。浮いた時間で、カエルの声に耳を傾ける余裕も生まれるかもしれない。
DXの本当の目的は、効率化ではなくて「余白を作ること」なのかもしれない・・・
田んぼのそばを歩きながら、そんなことを思いました。
AYAKA’s View

カエルの声を聞きながら、第2回コラムで書いた「暗黙知」のことを思い出していました。おばあちゃんの「目分量」と、農家の方の「カエルの声」は、同じ種類のものです。長い時間をかけて身体に染み込んだ、データにならない知恵。
センサーが数値で測るのと、人が五感で感じるのは、どちらが正しいということではありません。両方あることで、農業はもっと豊かになる。
このGW、もし田んぼや畑のそばを通る機会があったら、立ち止まって少しだけ耳を澄ましてみてください。カエルの声の中に、センサーには載っていない何かが聞こえるかもしれません。
明日(5/3)は「SpotifyよりCDを買う日 『探す手間』が生む音楽との深い関係」をお届けします。
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